蒼井 悠人

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『現代の學生層』

 今日僕等の周圍しうゐに提供されてゐる莫大な知識の堆積と、無秩序な事態の樣相に銳敏であれば、僕等の內憂の力が絕えずさういふものにおうずるために浪費されざるを得ない。さういふ新らしい時代の不運を逃避してはならぬ。僕等はたつた一つの的を射拔いぬくのに十年前の⾭年が思つてもみなかつたほど澤山たくさんの矢を射ねばならぬのである。今日、心の浪費を惜しむものは何事も成就し得ないと僕は考へてをります。
 大切な事は、矢といふものはいくら無駄に使つても決して射る矢に缺乏けつばふを感ずるといふ事はない、さういふ自信を持つ事です。矢は心のうちからはつする、そして人間の心といふものはいつも誰の心でも無限の矢をざうしてゐる、さういふ自信を得る事です。

(『現代の學生層』小林秀雄 昭和十一年六月)

二十一世紀といふ知識や情報の氾濫した今日に於いても、まつたくおなじことがいへるのではないかと思ふ。

僕等は日々錯綜した知識や情報の渦の中で溺れてしまはぬやう必死にもがいてゐる。しかしさうした荒海をものともせず、絕えず心の矢を發しつづける人のみが彼方の的を射とめることができるであらう。

心の浪費を惜しんでゐてはなるまいと念ふ。

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