蒼井 悠人

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堀辰雄

いま倉敷をでることを考へてゐますが、どこに住むかといふことについてなかなか結論がでません。

岡山、奈良、東京と日ごとに頭のなかで錯雜と想ひがめぐります。

ここ數日『窓辺の風』(宮城谷昌光)を讀んでゐて、そのなかに堀辰雄のことがでゝをり、今日彼の書いたものをむしやうに讀みたくなりました。そんなわけで圖書館に行き『堀辰雄全集第四卷』(筑摩書房)を借りることにして、「自作について」といふところを讀んでみました。

彼の小說はまだ讀んだことがありません。まあこれからといふことなんですが、とにかく彼の随筆や評論をまづ讀んでみたいと意つてゐて、今日は上記のところをちよつと讀んでみました。

そこに「大和路」を旅したときのことや折口信夫のことが書いてあるんですが、そのやはらかくて心地のよい文章を讀んでゐると、かつて「山邊の道」を步いたときの胸の奥がしめつけられるやうな感覺が懷しくおもはれ、やつぱり奈良かなあ、といふ氣がしてきました。

ここ數日東京にかたむいてゐたのに......あらためて言葉の力はすごいなあと(笑)

“はじめて私が大和に游んだのは、一九三七年のことである。晚春から初夏にかけて、京都に一と月ばかり暮らしてゐた。そのをり萬葉集などもときどき讀んでみてゐたが、或る日、ふいに思ひ立つて、ひとり奈良へ出かけ、新藥師寺の高圓山を眺めたりして、一種の滿足を得た。歸りみち、高畑の古びたついぢ道を通り拔けてゆくうち、おもひがけず一めんに白い茅花が微風になびいてゐる小さな原へ出たときの、一瞬の、目もさめるやうな心もちも、その最初の日の忘れ難いものの一つだつた。”

大和に游ぶべきかなあ。

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