白濱滯在記 四
「白良濱にて」
さて、一月十日、「不知綱棧橋」の景色を見納めてから、「今日こそは!」とうつくしい夕陽を期待しながら「白良濱」へゆきました。
彼方の船を見遣りながら日の暮れてゆくのを眺めてゐました。
夕日から緑水の面を渡り、濱へと延びてくる一条の光がとてもうつくしかつたです。
砂上にぬくもりのある陽光をおいてゆく。
やさしい夕暮れです。
ほんたうに最後の最後でこの夕陽を視ることができました!
ありがたいことです。
白濱に來てよかつたなあ、と念ひましたね。
これでおもひのこすことなく倉敷に還ることができる、さうおもひました。
『萬葉集』より
「幸于紀伊國時川島皇子御作歌 或云山上臣憶良歌」
白波の 濱松が枝の 手向草 幾代までにか 年の經ぬらむ(萬:三四)
「大寶元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌一三首」より
妹がため 我玉求む 沖べなる 白玉寄せ來 沖つ白波(萬:一六六七)
白崎は 幸くあり待て 大船に ま梶しじぬき また歸り見む(萬:一六六八)
風無の 濱の白波 いたづらに 此處に寄り來る 見る人なしに(萬:一六七三)
「人麿歌集」より
戀ふること 心やりかね 出で行けば 山を川をも 知らず來にけり(萬:二四一四)
水の上に 數書くごとき 我が命 妹に會はむと うけひつるかも(萬:二四三三)
沖つ藻を 隱さふ波の 五百重波 千重しくしくに 戀ひ渡るかも(萬:二四三八)
此の度の白濱滯在では他處を觀光する餘裕がありませんでした。まだまだ視たい處はたくさんあります。
絕ゆることなくまた還り見む、さう意つてゐます。
白濱の天地人に感謝致します。
ほんたうにありがたうございました!