西伊豆滯在記
「西伊豆にて」
かなり時が經つてしまひましたが二月、三月に伊豆に滯在したときのことを書きます。
この旅の初日がちやうど熱海の「MOA美術館」のリニューアルオープンの日に當たり、尾形光琳の代表作『紅白梅圖屛風』を初めて生で視ることができました。ずつと視たいと念つてゐた願ひがかなひ、とてもうれしくおもひましたね。
ほんたうにすばらしい畫でした。ぜひ來年も視にゆきたいと意つてゐます。
また杉本博司氏を中心とした改裝も凄かつたです。壁に黑漆喰を用ゐることで光を巧みに調節し、作品とそれを視る者とが一對一になることができるやうになつてゐました。(Interview link)
他處では體驗することのできない、獨特な空閒が創り出されてゐますね。
谷崎潤一郎の『陰翳禮讚』の世界です。
美術館を訪れた後は富士市に住んでゐる高校の同級生と久しぶりに會ひ、部屋に一泊させてもらひました。翌朝彼の部屋を出て不盡山を目にしたのですが、それはもうほんたうに壯觀でしたね!每日この絕景をみてゐるのかとおもふと羨ましいかぎりでした。
それから田子の浦に連れて行つてもらひ、其處でもまた不盡山を望みました。この日はよく晴れてゐて、此處から眺める不盡山はまた格別でしたね。山部赤人の歌碑が在り、いにしへに念ひを馳せました。
「田子の浦より不盡山を望む」iPhone snapshot
「山部赤人歌碑」iPhone snapshot
不盡の姿をしつかり胸に刻んで西伊豆へ向かひました。
西伊豆には二ヶ月程滯在することになりましたが、そのなかで最も親しみを覺えたのはこれらの紅白梅でした。
僕にとつてこの季節の一番のたのしみは梅を視ることなので、滯在先で每日のやうに目にすることができたのは仕合せでした。蕾から滿開まで、この春ほど日々生長を觀つゞけたことは今までありませんでした。
梅を視ては萬葉集をよむ、といつた生活をしてゐましたね。特別な梅園といふわけではなく、よく通つた路に咲いてゐたものです。それがまたよかつたんですよね。
“梅花 吾者不令落 ⾭丹吉 平城之人 來管見之根”(萬:一九〇六)
梅の近くに菜の花も咲いてゐました。
「駿河灣の夕景」
澤田公園の露天風呂がある場所から望む夕日、とてもうつくしかつた。今囘はお風呂には入りませんでしたが、また機會があれば、ゆつくりお湯につかりながら夕陽を滿喫してみたいとおもひます。
𨳝皐月庚子